荒木さんと夏の一日
皆さんこんにちは、店長兼ディレクターの関根です。
先日、澤屋で帯の染めをお願いしている荒木節子さんと都内へ出掛けました。
年齢でいうと三周りくらい違うのですが、不思議に話が合い、
一緒に出掛けると、考えや気づきがどこかに繋がってまわっていく、
とても楽しい時間を過ごします。
まずは東京都現代美術館へ。
ブラジルの建築家オスカー・ニーマイヤー展、
ヨーガン・レールが漂着したゴミで作った照明作品を資料映像までじっくり
時間をかけて鑑賞。その後ミュージアムショップにて
「この人面白いんですよ」と横山裕一の作品集を見せたら、
「良い。たった1つでもどこかに作品のインスピレーションを与えてくれるものがあったら儲けもの」
と荒木さん。
横山裕一はストーリーではなく時間や空間を描くマンガ家であり、
作品の持つ普遍性から美術館での作品展があったり、
海外で作品集が出版されたりと世界的に活躍している作家です。
「ニュー土木」というマンガは本当に面白くて素晴らしいです。
この日はマンガではなく作品集を二人で購入しました。
すると購入特典で、横山裕一直筆の裏紙マンガが一枚もらえるとのこと。
軽く100枚以上ある紙をより分けながら、真剣に選ぶ二人。
「これ良い」「こっちも捨てがたい」「グイーンより、スポ、かなー」などなど悩む私たちを
見かねて、お店の人が「作品集よりどう見ても数が多いので2枚選んで良いですよ」
と言ってくれました。
この真剣さが重要だと思っています。
そして横山裕一を見出す感性の瑞々しさ、
創作に利になるものであれば何でも取り入れようとする貪欲さ、
これが荒木さんなんだ、と思いました。
この日はその後、荒木さんと同郷の写真家・鈴木理策の写真展を観て
夕飯を食べて帰りました。
風景の話、故郷の話、中上健二、セザンヌとサント・ヴィクトワール山、メルロ・ポンティ、
朝日新聞の車谷長吉の人生相談、日高敏隆・・・話は尽きず、話題はあちこちに繋がり
展開していきます。
戦後すぐに生まれた荒木さんと、昭和の終わりに生まれた私と、世代は全然違うけれど
通じ合える部分があるのは、お互いに本を読む習慣があることと、読んできた本に
共通項があることが大きいのだと思います。
古典、世界文学、哲学、普遍的なものに触れる大切さを想います。
今年の9月に澤屋で行う荒木さんの個展ではトークイベントも予定していて、
創作の変遷や荒木さんが今まで見てきたもの、旅先の景色など
たくさんの写真を交えながらお話を伺います。
着物を装う以上の、生きていること、記憶のことなど、もっと広くて大きいものに
繋がっていくような感覚が、少しでも共有できたらと思います。